大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

旭川家庭裁判所 昭和44年(少)1881号 決定

少年 Τ・N(昭二六、一・七生)

B・S(昭二六・八・六生)

主文

上記事件については少年らを保護処分に付さない。

理由

一  一件記録によれば送致事実の概要はほぼこれを認めることができ、それが暴力行為等処罰に関する法律に違反するものであることも一応肯認し得ないではない。

二  そこで、本件発生の経過をみるに、当日、少年達が校長宅へ出向いた直接の目的は、一両日前になされた学生寮閉鎖の告示につき教官に来寮のうえ説明するよう要求しようということであつたが、当初から実力で教官を寮へ連行しようと企図していたものではなく、初めは寮生会会長たる少年T・Nと同副会長たる少年B・Sの両名のみが校長宅に入り教官に来寮を求めていたが容易にこれに応じて貰えず押問答がつづき、次第に戸外に待機していた寮生達が待ち切れない様子となつて、その一部の者が同宅に上り更に押問答をつづけたが折合わず、結局本件に至つたものと認められる。

三  ところで、上記少年らの実力行使が許されるべきものでないことは言うまでもないとしても、学生寮閉鎖の告示により即日にも退寮するよう求められ、現実に寮での食事もできなくなつた寮生ら少年達が学校当局の措置を不満とし、これについて説明を求めようとしたその心情は理解し得ないものではない。

四  そして、上記の如く、少年達が当初から実力で教官を寮へ連行しようとしたものではなく、本件における実力行使も主事を校長宅の一室から同宅玄関前の路上へ連れ出した段階で終つておりその時間、距離もそれ程長いものではないこと、少年両名はいずれも前記の如く寮生会会長、同副会長としてその役職上直接交渉にあたらざるを得ない立場にあり、上記の如き経過により本件に至つたものであること等の諸点を考慮すると、本件非行は刑事犯罪として必ずしも悪質、重大なものであるとは断じ得ない。

五  他方、当庁調査官の調査によるも、上記両少年には関係機関の矯正教育を要する程の資質、性格上の偏りがあるとは認められず、いわゆる要保護性にも乏しいというべきである。

六  そして、本件が重要な要素となつて右両少年は退学処分に付されその社会的責任の一端を負うに至つていること、現時点においては両少年とも本件につき刑責を負うべきことの認識は有するに至つており今後の行動については自重する態度が窺われること等の事情をも併せ考えると、本件については、あえて保護分に付しあるいは刑事責任を問うまでもなく、少年らの今後の自覚、自省を期待して終局せしめるのが相当である。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 上野茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例